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第1話「ナイロビの朝」
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まだ夜の名残りが空の端に居座る時刻、ブライアン・オティエノは大学の図書館の隅で、借り物のノートパソコンを睨みつけていた。画面に映るのは、日本のとある工場で稼働する溶接ロボットの映像だ。人の腕の何倍もの正確さで、火花ひとつ乱さずに鉄骨を繋いでいく。
「……綺麗だな」
思わず声が漏れた。ナイロビ大学でコンピューターサイエンスを学んで三年、机上の勉強だけでは満たされない何かが、いつも胸の底にわだかまっていた。ものを、実際に「作る」現場に立ちたい。その渇きを、この動画は正確に言い当てていた。
ふと、幼い頃に母がよく口ずさんでいた歌が耳の奥に蘇った。「ウィンボ・ワ・ムウェジ」——月の歌。心細い夜にこの歌を口にすると、まるで月明かりに背中を押されるような気がする、と母は言っていた。
隣の椅子に鞄を投げ出すようにして座ったのは、幼馴染のジョセフだった。
「またそれ見てるのか。ブライ、お前ほんとに日本行く気か?」
「行く気っていうか……行きたいんだ。あの国には、俺が学びたいものがある」
ジョセフは肩をすくめ、机の上に一枚のチラシを滑らせた。ナイロビ工科大学の掲示板から剥がしてきたのだろう、隅が少し折れている。
〈日本技術者育成奨学金プログラム 選考試験 応募締切迫る〉
「受けてみたらどうだ。……まあ、狭き門らしいけどな」
ブライアンはチラシを手に取り、しばらく黙って文字を追った。奨学金を得られれば、日本語の壁も、渡航費の壁も、いくらか低くなる。だが選考試験は、決して簡単なものではないと聞く。
一方で、ジョセフの兄はすでにモンバサの港湾企業でIT職に就いており、堅実にキャリアを積んでいた。無理に賭けに出なくても、ここケニアで力をつけながら、地道に渡航の機会を待つという道もある。