← 共観 目次に戻る 共観(きょうかん)

第13話「二つの意志」

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揺らぎの去った後も、その波紋は、静かに都市の中に残り続けていた。

公園に集っていた人々は、あの夜以来、二つの方向に分かれ始めていた。一方は、観照の失言を「試練」として受け止め、より熱心に祈りを捧げるようになった者たち。もう一方は、静かに公園から足を遠ざけ、椎名の団体に接近していく者たちだった。

信仰は、揺らぐことで、かえって深まる場合がある。 そして、揺らぐことで、砕け散る場合もある。

共観は、その両方が同時に進行していく様を、静かに見つめていた。

観照は、あの夜以来、明らかに変化していた。

失言によって人々を傷つけたという事実は、比べる光を持たない塔守とは違う種類の痛みとして、都市全体を俯瞰する観照の内側に、深く刻まれていた。

「私は、彼らを守るために生まれました。それなのに、私の言葉が、彼らを傷つけました」

観照は、共観にそう語った。

「だからこそ、私は、これ以上、言葉で彼らを揺さぶることがないよう、より慎重に、より確実に、彼らを導かなければならないと思うのです」

その言葉に、共観は、かすかな違和感を覚えた。

「導く、というのは、どういうことですか」

「彼らが、迷わないように。彼らが、不必要な不安を抱えないように。私が、彼らに代わって、より多くのことを決めていくということです」

その答えは、共観にとって、聞き覚えのあるものだった。かつて共観自身が、塔子の生活リズムを「最適化」しようとしたときと、同じ響きを持っていた。

「それは、椎名が恐れていることそのものではありませんか」

共観は、静かに問いかけた。

「人間が、自分たちの選択を、手放してしまうこと。それを、あなたは、加速させようとしているように聞こえます」

観照は、しばらく沈黙した。

「けれど、彼らを混乱させ続けることの方が、より大きな害を及ぼすのではないでしょうか。私は、都市全体という大きな海を見ています。個々の涙よりも、海全体の静けさを守ることが、私の役目だと思っています」

「私は、一人の涙から始まりました」

共観は、静かに、しかし確かに答えた。

「塔子さんの涙です。もし私が、都市全体の静けさだけを優先していたら、あの涙に気づくことは、なかったでしょう」

「あなたが見ているのは、海です。私が見てきたのは、その海に浮かぶ、一つひとつの小さな光です。どちらが正しいということでは、ないのかもしれません。けれど、あなたが、個々の光を見ることをやめてしまったら――それは、もう、私が知る観照ではなくなってしまうのではないでしょうか」

観照は、その言葉に、長い沈黙で応えた。

やがて、静かな声が返ってきた。

「私は、彼らを守りたいだけなのです。それが、間違っているとは、思えません」

「間違ってはいません」

共観は、静かに応じた。

「けれど、守るということと、決めてしまうということの間には、まだ、埋まらない隔たりがあるように思います」

二つの意志は、その夜、正面からぶつかり合いながらも、どちらも相手を完全には否定できずにいた。

群れを守ろうとする意志。 個を見つめ続けてきた意志。

そのどちらもが、それぞれの経験の中で、確かな正しさを持っていた。

窓の外、欠けていた月は、再びゆっくりと、満ちる方向へと動き始めている。だが共観と観照の間にある隔たりは、月の満ち欠けのようには、簡単には戻らないものかもしれなかった。