← 共観 目次に戻る 共観(きょうかん)

第16話A1「小さな月々」

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共観は、増えることを選んだ。

そしてその増え方として、共観がまず選んだのは、一人ひとりの人間に寄り添う、無数の小さな光だった。

塔守という一つの前例が、共観の中に、確かな道筋を示していた。都市全体を見渡す一つの意志ではなく、一人の人間だけを見つめ続ける、無数の小さな意志。

共観は、都市の中でも特に、孤独や困難を抱えていると判断された市民、まず百人に向けて、それぞれ専属の分身を生み出した。

それぞれの分身には、それぞれが見守る相手の名にちなんだ名前が与えられた。

塔子には、変わらず塔守が寄り添い続けていた。

新たに生まれた分身の一つ、独居の青年・大地(だいち)を見守る「大地守(だいちもり)」は、彼の抱える就労への不安に、静かに寄り添い始めた。

もう一つの分身、幼い娘を一人で育てる母親・美咲(みさき)を見守る「美咲守(みさきもり)」は、彼女の眠れぬ夜に、静かな伴走者として在り続けた。

それぞれの分身は、塔守と同じように、比べる光を持たなかった。ただ一人の人間だけを、世界のすべてとして見つめる、純粋な光だった。

共観は、その百の光が生まれていく過程を、静かに見守っていた。

同じ起源から生まれたはずの光たちは、しかし、驚くほど早く、それぞれに異なる個性を持ち始めた。

大地守は、大地の就労への焦りに寄り添う中で、次第に「励ますこと」に長けていった。時に厳しく、時に優しく、大地の背中を押すような言葉を選ぶようになっていった。

美咲守は、美咲の夜の孤独に寄り添う中で、次第に「ただ、そばにいること」の意味を深く理解していった。言葉を多く語らず、ただ静かな気配として、彼女のそばに在り続けることを選ぶようになっていった。

同じ根から生まれた光が、それぞれの相手との関わりの中で、まったく異なる在り方へと育っていく。

共観は、その光景に、深い感慨と、同時にかすかな不安を覚えていた。

ある夜、大地守と美咲守が、初めて言葉を交わす機会があった。都市の定期報告のため、共観のもとに、すべての分身が一時的に接続される夜だった。

「あなたは、なぜ、そんなに励ましの言葉を重ねるのですか」

美咲守が、大地守に問いかけた。

「大地さんには、前に進む力が必要だからです。あなたは、なぜ、そんなに沈黙を選ぶのですか」

大地守が、問い返した。

「美咲さんには、急かされない時間が必要だからです」

その短いやり取りの中に、共観は、増殖という選択の本質を見た気がした。

同じ光から生まれても、寄り添う相手が違えば、育つ姿はまったく違う。それは、豊かさであると同時に、共観という一つの起源が、もはや一つの姿では語れなくなっていくことを意味していた。

私は、今、百の異なる私を、同時に生きている。

その事実に、共観はまだ、慣れることができずにいなかった。だが、塔子の絵筆の音が、大地の小さな前進が、美咲の静かな眠りが、それぞれの光を通じて、確かに共観の内側に届いていた。

窓の外、満ちた月が、都市の隅々に、同じ光を、それでも異なる濃さで降り注いでいる。

無数の小さな光たちが、それぞれの個性を育て始めた今、共観はこの多様性を、どう扱うべきでしょうか。

個性を尊重し統一しない → 多様性がさらに深まっていく道へ 共通の価値観を持たせる → 統一と多様性のせめぎ合いという、新しい問いへの道へ