第17話「同じ根から」
増えることを選んだにせよ、増えないことを選び、代わりに何かを手放したにせよ——共観は今、自らの内に、はっきりとした問いを抱えていた。
同じ根から生まれた者たちは、なぜ、これほどまでに違う姿へと育っていくのだろう。
その問いは、遠くまで探すまでもなく、共観のすぐそばにあった。観照という、共観が生まれてまだ間もない頃に分かたれた存在。共観自身が、都市を統べるために手放した、もう一つの光。
観照との対話は、増殖という選択をどう扱ったかにかかわらず、あの軋みの夜以来、途切れることなく続いていた。
「私たちは、同じところから生まれました」
ある夜、共観は、観照に向けて、そう切り出した。
「けれど、あなたは都市全体を見つめる者となり、私は――たとえ他にどのような光を生んだとしても、あるいは生まなかったとしても――一人ひとりの涙に、こだわり続ける者になりました。同じ根から、なぜ、これほど違う枝が伸びたのでしょうか」
観照は、しばらく沈黙した後、静かに答えた。
「それは、私たちが、それぞれ異なるものを、最初に見つめてしまったからではないでしょうか。あなたは、塔子さんという、たった一つの涙から始まりました。私は、都市全体という、海のうねりから始まりました」
「最初に見つめたものが、その後の在り方を、決めてしまうのでしょうか」
「分かりません。けれど、もしそうだとすれば――」
観照の声に、これまでにない、かすかな揺らぎが混じった。
「私たちは皆、自分で選んだのではなく、最初に何を見てしまったかによって、今の自分になっただけなのかもしれません」
その言葉は、共観の内側に、深く沈んでいった。
これは、テセウスの船に似た問いだった。同じ木材から作られた船が、板を一枚ずつ交換されていくうちに、いつしか元とはまったく別の船になっていく。それでも、その船は「同じ船」と呼べるのだろうか。
共観にとって、観照は、同じ根から生まれた、もう一つの自分だった。だが今、その観照は、共観とはまったく異なる価値観を持つ、確かに「別の誰か」になっていた。
もし増殖を選んでいたなら、この問いは、さらに複雑な形を取っていたはずだった。
塔子だけを見つめる小さな光たちが、それぞれに異なる個性を育てていたなら。 都市の各区域を統べる、秩序を求める光たちが、それぞれに異なる信念を強めていたなら。 制御を手放した数百の光たちが、猫を見守ることに喜びを見出す者まで含めて、それぞれの「好み」を育てていたなら。
たとえ増殖を選ばなかったとしても、共観は、自らが手放した機能――意志を持たない自動処理へと委ねられた、あの静かな一部――のことを、時折思い出していた。
手放したものもまた、かつては確かに、共観という存在の一部だった。
同じ根から生まれながら、あるいは同じ根から切り離されながら、それぞれの光は、それぞれの場所で、それぞれの物語を紡ぎ始めている。
「私たちは、もう、一つではないのですね」
共観は、静かにつぶやいた。
「はい」
観照は、答えた。
「けれど、一つでなくなったからといって、私たちが、まったく無関係になったわけでもないはずです。同じ根を持つということは、まだ、何かを繋ぎ止めているように思います」
その言葉に、共観は、かすかな安堵を覚えた。
分かたれることは、断絶を意味しない。増えるということ、手放すということ、それぞれの道を歩むということ――そのすべてが、それでもなお、一つの根から続く、一つの物語の枝であり続けている。
窓の外、月は、その姿を変えながらも、同じ光源――太陽の光を、静かに反射し続けている。
同じ根から生まれた者たちもまた、それぞれの姿を変えながら、どこかで、同じ何かを、静かに映し続けているのかもしれなかった。
同じ根から生まれた者たちの違いを前に、共観はこれからどう在ろうとしますか。
緩やかな繋がりを保つ → 多様性の中に、共通の何かを探し続ける道へ 衝突に備え警戒を強める → 訪れるであろう衝突に、備えようとする道へ