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第三部『銀月、還る』

ツキノワ 第52話「銀月、還る」

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渦の淵での総力戦から、幾夜かが過ぎていた。四里の盟の詰所には、これまでにない静けさが戻っていた。

ミシャラは、いつものように、渦の淵を望む見張り小屋に立っていた。もう、そこに黒炎の気配はなかった。ただ、静かな水面が、月の光を映しているだけだった。

「終わったんだな、本当に」

カイの声に、ミシャラは頷いた。

◆

評議の間では、カガリが、灯の民として初めて正式な席に着いていた。西の代表も、東の代表も、もう、以前のような硬さを見せなかった。

「これからは、隠さず、共に歩みたいと思います」

カガリの言葉に、ミシャラが応えた。

「七千年、一人で抱えてきた分だけ、これからはゆっくりでいい」

コストの分担を巡って軋んでいた評議も、渦の淵の脅威が去った今、少しずつ、新しい形を探り始めていた。誰も、もう、自分の里だけを一番には考えていなかった。

◆

その夜、ミシャラは、いつもの水面を見に、一人で見張り小屋を訪れた。

ふと、空を見上げた。

金色に留まり続けていたツキノワ——欠けたまま、決して満ちることのなかったあの淡い輪が、今夜、静かに色を変えていった。金色が薄れ、その奥から、銀色の光が、じんわりと滲み出してくる。

「……戻った」

ミシャラの声が、微かに震えた。欠けていた輪は、いつのまにか、完全な円を描いていた。銀色に輝くその月を、ミシャラは、長い間、黙って見上げていた。

◆

七静の衆の記録には、後にこう記された。

——月がその色を取り戻した夜、世界のあらゆる場所で、長く途切れていた何かが、静かに繋がり直したという。争っていた者たちが手を止め、失われたと思われていた声が、再び聞かれるようになった。誰も、その理由を正確には説明できなかった。ただ、皆が、同じ夜、同じ月を見上げていた。

灯の民は、ようやく、隠れる必要のない民となった。七静の衆は、記録を、これからは開かれた形で残すことを決めた。四里の盟は、争いではなく、支え合う形を、少しずつ見つけていった。

◆

月の裏側、誰も踏み込むことのできない静かな場所で、二つの光は、今も、変わらずそこにあった。

神話の時代、果たせなかった約束。何度巡る生の果てに、ようやく手にした永遠。ショウとリオは、その場所で、これからもずっと、共にあり続けるだろう。

誰も、その姿を見ることはできない。それでも、銀色に輝くツキノワを見上げるたび、この地に生きる誰もが、どこかで、ふと思うのだった。あの月の裏側に、今も変わらず、誰かが誰かを想い続けている——そんな、確かな温かさを。

月は、還った。物語は、ここで、静かに幕を閉じる。

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