第二部『狂乱の黒炎』
ツキノワ 第23話「南へ続く夜」
出立の朝、鏡守の会の門前に集まったのは、ミシャラ、ショウ、リオ、そしてもう一人——エドニマウの手合わせ衆から遣わされた、若い剣士だった。
「カイだ。よろしく頼む」
日に焼けた顔に、快活な笑みを浮かべて名乗った。四里の盟の式の日、旗を掲げていたあの若者だと、ショウはすぐに気づいた。あのときより、腰の剣は幾分使い込まれているように見えた。
「南は初めてか」
リオが問うと、カイは肩をすくめた。
「初めても何も、地図にも描かれてない場所なんだろ? みんな初めてだよ」
物言いに、気負いはなかった。ただ、その気負いのなさの中に、ショウはふと、遠い昔——群発の夜に木刀を振っていた友の姿を、重ねずにいられなかった。名も、顔も違う。それでも、何かが似ていた。
◆
南へ向かう道は、氷原から次第に、名もない荒れた岩地へと変わっていった。篝火の網も、鏡守の会の見張りも、この先にはなかった。四人は交代で見張りを立て、夜ごと野営を重ねた。
三日目の夜、ショウが見張りを代わろうと起き出すと、リオがすでに火のそばに立っていた。眠っている様子はなく、南の——まだ何も見えない、暗いだけの地平を、じっと見つめていた。

「起きてたのか」
声をかけると、リオはわずかに肩を動かした。
「……ああ。柄にもなく、眠れなくてな」
「何を見てる」
「さあな」
いつもの答えだった。だが、いつもと違って、リオはその視線を、なかなか外へやらなかった。ショウが並んで火のそばに立っても、しばらくそのままだった。
「黒炎の気配がするのか、あの方角に」
思わず問うと、リオは一瞬だけ、目を見開いた。それから、いつもの軽さを取り戻したように笑った。

「気配なんてもの、俺にわかるわけないだろ。お前の方が、水鏡だの何だの、よっぽど敏いはずだ」
はぐらかされたことは、わかった。だが、それ以上を問い詰める言葉を、ショウは持たなかった。二人は、しばらく無言で、同じ暗闇を見つめ続けた。
◆
翌朝、火を消して荷をまとめる間、カイが吞気に伸びをしながら言った。
「昨日、二人して眠らなかったろ。何かあったのか」
「……いや、何でもない」
ショウが答えると、カイはそれ以上追及せず、代わりに剣の柄を軽く叩いた。
「まあ、何があっても、俺が斬ればいいだけの話さ」
その軽さに、ミシャラが小さく笑った。ショウも、束の間だけ、肩の力が抜けた気がした。だが、隣を歩くリオの横顔だけは、朝の光の下でも、どこか晴れないままだった。
