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第二部『狂乱の黒炎』

ツキノワ 第24話「名乗りの男」

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荒れた岩地を抜けた先、四人は思いがけず、崩れかけた集落に行き当たった。かつて暗黒街の外れにあった隠し倉庫の一つが、今も細々と交易の場として使われているらしかった。ミシャラが道を確かめようと足を止めた。

「ここは……」

「地下カルテルの名残だ。まだ、南への荷を扱う連中がいるとは聞いていたが」

リオが、珍しく苦い顔で言った。ショウの記憶にも、うっすらとその名は残っていた。何百年も前、まだマニャの器だった頃の話だった。

◆

案内を頼もうと立ち寄った倉庫の奥から、一人の男が出てきた。痩せた体つきに、抜け目のない目つき。歳の頃は、ショウの目にはよくわからなかった。

「名乗るほどのものではないが、まあソウとでも呼んでおけ」

倉庫の奥から現れた、ソウと名乗る男

その一言に、ショウは思わず息を止めた。何百年も前、同じ台詞を、同じ抑揚で聞いたことがある。あのときの声とは、明らかに違う人物だった。だが、口にした言葉だけは、一言一句、変わらなかった。

「……その名は、代々のものか」

思わず問うと、男は片眉を上げた。

「察しがいいな。この稼業を継ぐ者は、皆その名を借りる。誰の名でもなく、誰の名でもある——そういう決まりだ」

「なぜ、そんな決まりを」

「さあな。俺が生まれる前からの話だ。……お前、その目、どこかで見た気がするな」

ショウの顔をしばらく眺める男

男は、ショウの顔をしばらく眺めていた。ショウは、何も答えなかった。答えられるはずもなかった。

◆

道を教えてもらう間、リオは終始、口を挟まなかった。ただ、ソウと名乗る男の背後、崩れかけた倉庫の奥を、何度か横目で見ていた。カイだけが、物珍しげにあたりを見回していた。

「ここも、いずれ黒炎に喰われるかもしれんな」

男が、道を教え終えたあと、ぽつりと言った。

「喰われる前に、名を捨てるつもりはあるのか」

ショウが問うと、男は初めて、笑わなかった。

「……名は、借り物だ。捨てるも何も、そもそも俺のものじゃない」

笑わずに、倉庫へ振り返る男

それだけ言って、男は倉庫の中へ戻っていった。ショウは、その背を長いこと見送った。名を借りて生きるということの重さを、ショウ自身、よく知っていたからだった。

◆

集落を抜けたあと、リオがようやく口を開いた。

「昔のことを、思い出したか」

「……多少は」

「気にするな。あの手の連中は、いつも同じ台詞を使い回す。それだけのことだ」

いつもの調子だった。だが、ショウには、リオの声にわずかな疲れが滲んでいるように聞こえた。理由を問うことは、しなかった。南への道はまだ長く、問うべき時は、今ではない気がした。

(第25話「灯の民の遺跡」へ続く)

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