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第三部『銀月、還る』

ツキノワ 第37話「血の請願」

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評議の間に、思いがけない使者が現れたのは、名乗らぬ客の来訪から数日後のことだった。

「灯の民の名で、話がある」

その一言に、一室がざわついた。灯の民といえば、南の無人の地に暮らしていたと伝わる、何百年も前に滅んだとされる民だった。使者は、痩せた体に古い布を纏い、静かに一室を見渡した。

「滅んだはずでは」

若い駐在武官が思わず口にした。使者は、それに小さく笑った。

「滅んだと思われていただけです。私たちは、ずっとそこにいました」

◆

ショウは、その顔に、遺跡で会ったカガリの面影を重ねずにいられなかった。よく見れば、目元の輪郭に、確かに通じるものがあった。

「カガリを、知っているのか」

思わず問うと、使者は初めて表情を動かした。

「あれも、私たちの血の者です。……あなた方の調査隊を導いたのは、偶然ではありません」

一室に、また別の種類の緊張が満ちた。

◆

「要求があって来た、ということか」

ミシャラが問うと、使者は静かに頷いた。

「四里の盟が、南の無人の地への立ち入りを、今後は私たちの許しを得た上でのみ行うこと。それだけです。武力での要求ではありません」

「これは、私たちの血に刻まれた誓約です。……破れば、その先で流れるのは、黒炎ではなく、赤い血になるでしょう」

静かな声だったが、そこに滲む凄みに、一室の温度がわずかに下がった。

「南の調査を止めろと言うのか!」

中央の武官が、思わず色めき立った。黒炎の発生源を断つための調査は、四里の盟にとって命綱に等しいものだった。

「なぜ、今になって」

ミシャラが、武官を目で制しながら問うた。

「あなた方が踏み込んだ遺跡には、私たちがまだ語っていない歴史が眠っています。……それを、勝手に持ち出されたくないだけです」

その声には、怒りよりも、長い孤立が染み込んだ重さがあった。

◆

「一つだけ、教えてほしい」

ショウが、思わず口を挟んだ。

「あなた方は、何を、七千年も守ってきたんだ」

使者は、しばらく黒く沈んだ目でショウを見つめた。

「それを話す日は、まだ来ていません。……ただ、いつか必ず来ます」

それだけを言い残し、使者は静かに評議の間を去っていった。武力衝突は、何一つ起きなかった。それでも、その場に残された緊張は、これまでのどの脅威よりも、深く静かに一室に根を張っていた。

(第38話「鏡の起源」へ続く)

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