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第三部『銀月、還る』

ツキノワ 第44話「崩れる均衡」

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カガリが、ついに評議の間に姿を現した。灯の民の使者として、正式な立場でだった。

「私たちの歴史を、全てお話しします」

カガリの声は、以前遺跡で聞いたものより、幾分硬かった。

「太古、私たちの祖先——正義のマニャの血統——は、南の出入口を秘儀で守り続けてきました。血統の人口は代を重ねるごとに減り、界暦七千年、ついに守りが崩れた。それが、あの大異変の正体です」

◆

「なぜ、それを黙っていた」

西の代表が、思わず声を荒げた。カガリは、静かにそれを受け止めた。

「明かせば、私たちの血の中に、悪へ堕ちた9割の同胞がいたという事実まで、明かさねばなりません。……その負い目を、七千年、誰にも語れませんでした」

一室に、重い沈黙が落ちた。誰も、その孤独を簡単に断じることはできなかった。

◆

その報告が終わるとほぼ同時に、詰所の外から、慌てた足音が響いた。

「南の氷原の外れに、これまでとは違う気配が! 統率された動きで、渦の淵へ向かっています!」

「人の姿はしていますが……目という目が、黒く塗り潰されていました! 顔には、黒い炎のような紋様が!」

黒炎信奉者と名乗る一団——黒炎の魂に呼応して動く者たちが、初めてその姿を現した瞬間だった。

「四里の盟、七静の衆、灯の民……三者が今、揺れている隙を狙ったのか」

ミシャラの声に、初めて焦りが滲んだ。

◆

「今は、争っている時間はない」

ショウが、思わず声を上げた。

「灯の民が黙っていたことも、四里の盟が抱えていた対立も……今、それを言い合っても、何も守れない」

一室の空気が、わずかに変わった。カガリが、深く頭を下げた。

「……そうですね。今は、まず」

崩れかけた均衡は、まだ完全には立て直っていなかった。それでも、共に立ち向かうべき影が、初めて、三者の前に同じ形で現れていた。

(第45話「愛した悪」へ続く)

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