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第三部『銀月、還る』

ツキノワ 第47話「百の魂」

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光の帯を抜けた先に、ショウが見たのは、色というものをまだ知らない、静かな景色だった。音もなく、風もなく、ただ、無数の淡い光が、ゆっくりと漂っていた。

「ここが、精霊界」

呟いた声さえ、この場所では、ひときわ小さく響いた。

◆

淡い光の一つが、ゆっくりとショウのそばへ近づいてきた。声はなかった。それでも、その光に触れた瞬間、ショウの中に、覚えのない記憶が、静かに流れ込んできた。

——神話の時代、まだ何も名を持たなかった頃。百体の魂と器が、望むままに世界を形作っていた。その中に、深く愛し合う二体がいた。

その記憶の中の自分が、今のショウと同じ胸の痛みを抱えていることに、ショウは気づいた。何度目かの生でも、変わらない何かが、確かにそこにあった。

◆

もう一つの光が、静かに近づいた。今度は、リオが月の裏側へ渡っていく後ろ姿が、記憶の中に浮かび上がった。

——悪をも救おうとしたその優しさは、偽りではなかった。月の裏側に捨てられた者たちも、かつては誰かに見捨てられただけの、ただの弱い魂だったのかもしれない。

その思いが、光そのものから伝わってくるように、ショウの中に染み渡っていった。リオが救おうとしたものの正体に、初めて、輪郭が与えられた。

◆

三つ目の光が、ためらうように近づいてきた。触れた瞬間、これまでとは比べ物にならない激しさで、何かがショウの中へ流れ込んできた。

黒炎に染まっていくときの、途方もない孤独。身を引き裂かれるような苦痛。誰にも助けを求められないまま、ただ一人、堕ちていく感覚――それは、ショウ自身の意識さえ吹き飛びそうになるほどの、圧倒的な絶望だった。

「ぐ……っ」

思わず膝をつきかけたショウは、それでも、歯を食いしばって踏みとどまった。

「リオは……こんな痛みを、たった一人で耐えていたのか」

涙が、頬を伝った。それでも、ショウは、目の前の光――痛みそのもの――を、そっと両手で抱きしめた。逃げることも、拒むこともしなかった。

◆

「お前は、それでも、俺のところへ帰ってこようとした」

ショウが、光に向かって、そう呟いた。応える声はなかった。それでも、光の群れが、一瞬、ゆっくりと揺らめいた気がした。

やがて、一つの光が、そっとショウの胸に触れた。冷たくはなく、ただ静かに、確かな重みを残して、そこに宿った。

精霊の力を宿したショウの中に、これまでのどの答えよりも確かな、一つの決意だけが残っていた。帰る。リオのところへ、必ず。

(第48話「曇り、晴れる」へ続く)

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