第三部『銀月、還る』
ツキノワ 第48話「曇り、晴れる」
精霊界から戻ったショウの体には、以前にはなかった、静かな光が宿っていた。ミシャラもカイも、その変化に何も問わず、ただ深く頷いた。
「行くのか」
カイが問うと、ショウは頷いた。
「渦の淵の近くに、黒炎の一団がいる。……その中に、リオもいる」
◆
渦の淵に近い前線、黒炎信奉者の一団が展開する中に、リオの姿があった。黒く染まった目が、ショウを見据えた。
「また、来たのか」
「今日は、迷わない」
ショウは、剣を構えることなく、ただ、真っ直ぐにリオへ向かって歩き出した。殺到する信奉者たちの間を割って追ってきたカイとミシャラが、血まみれになりながらその道を食い止めた。
「前だけ見ろ! ここは、俺たちが抑える!」
カイの叫びを背に受けながら、ショウは、迷わず足を進めた。周囲の影が、なおも阻もうと動いたが、ショウの中の光が、静かに、それらを押し戻していった。
◆
「お前が、月の裏側で、何を救おうとしたか、知った」
ショウの声に、リオの黒い目が、初めて揺らいだ。
「悪をも見捨てられなかった、その優しさが、お前の全部だった。……それを、今度は俺が支える」
ショウが、精霊の力を宿した手を、リオへ伸ばした。触れた瞬間、リオの体が、大きく震えた。
「……や、めろ……」
低く漏れた声は、いつものリオの声とも、黒炎に染まった声とも違う、震える響きだった。
◆
「離れない」
ショウは、その体を抱き寄せた。触れた瞬間、黒炎がショウの腕を焼くように、鋭い激痛が走った。それでも、ショウは腕を緩めなかった。焼かれながらも、なお強く抱きしめ続けた。リオの目の奥で、黒い曇りが、少しずつ、薄れていった。深紅の色が、そこに滲み始めた。
「……ショウ」
初めて、ショウの名を呼ぶ声に、これまでの黒さはなかった。リオの中に、小さな、しかし確かな光が、静かに目を覚まし始めていた。
曇りは、まだ完全には晴れていない。それでも、二人の間に、初めて、同じ方向を見つめる光が生まれていた。